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アセクシュアルの生きづらさ|調査が示す実際

アセクシュアルの生きづらさは恋愛の悩みとして語られがちです。全国5,339人の調査では、無性愛者が挙げた困りごとの1位は仕事で59.2%、恋愛は12.2%と異性愛者を下回りました。生きづらさが実際に出る5つの場面と、場面ごとの返し方を当事者13人の語りから解説します。

Pace編集部
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生きづらいと感じてきた原因を、あなたはずっと恋愛のせいだと思ってきたはずです。恋人ができません。できても続きません。だから自分は人として何かが足りないのだろう——草食、奥手、冷たい、淡白。そう言われ続けてきたなら、それはあなたの性質の説明ではなく、他人があなたに貼ったラベルです。

数字を見ると、生きづらさが出ている場所は違います。全国から無作為に選ばれた5,339人の調査で、「アセクシュアル・無性愛者」と答えた人が挙げた困りごとの1位は「自分の仕事」で59.2%でした。「自分の恋愛」は12.2%で、異性愛者の13.0%を下回っています。

苦しいのは恋愛そのものではありません。恋愛と性愛が当たり前に存在する前提で回っている場所に、毎日いることです。その場所は職場にも実家にも友人との飲み会にもあります。どの場面で何が起きるのかがわかれば、消耗を減らす手は打てます。

アセクシュアルの生きづらさは恋愛の外側に出ています【全国調査の実際】

2023年2月に実施された「家族と性と多様性にかんする全国アンケート」は、住民基本台帳から層化二段無作為抽出法で全国18〜69歳の18,000人を選び、郵送で調査票を届けた調査です。有効回答は5,339人でした(国立社会保障・人口問題研究所)。

この調査は「今の生活で困っていること」を複数回答でたずねています。性的指向別に集計した結果を、異性愛者と並べると差の出方がはっきりします。

日常の困りごと|無性愛者と異性愛者の比較無性愛者異性愛者自分の仕事59.2%36.6%老後の生活55.1%42.6%家族・親族の関係32.7%16.6%ハラスメント・差別12.2%2.7%自分の恋愛12.2%13.0%※恋愛だけが、無性愛者のほうが低い項目です。差が大きいのは仕事・老後・家族・ハラスメント。※無性愛者の回答は49人。1人の回答が約2ポイントを動かす規模です。
「家族と性と多様性にかんする全国アンケート」(2023年)の日常の困りごと集計をもとに作成

15項目のうち、無性愛者が異性愛者を下回ったのは「自分の恋愛」「出産・子育てや子どもを持つこと」「近隣・地域での人間関係」「子どもの教育」の4つだけでした。それ以外は同水準か、上回っています。

困りごとの項目無性愛者異性愛者
自分の仕事や就職59.2%36.6%+22.6pt
自分の健康57.1%49.9%+7.2pt
老後の生活55.1%42.6%+12.5pt
現在の収入や家計42.9%37.8%+5.1pt
家族・親族間の人間関係32.7%16.6%+16.1pt
家族の介護32.7%19.2%+13.5pt
ハラスメントや差別的な扱い12.2%2.7%+9.5pt
職場以外の友人・知人との関係12.2%5.1%+7.1pt
自分の恋愛12.2%13.0%−0.8pt

出典は同調査の結果概要(PDF)です。無性愛者と答えた49人が母数のため、1人の回答が約2ポイントを動かします。細かい上下ではなく、差の大きさの順序だけを読んでください。

差し引いても、傾向ははっきりしています。恋愛の悩みは平均並みです。仕事、老後、家族との関係、そしてハラスメントで差がつきます。ハラスメントや差別的な扱いを困りごとに挙げた割合は、異性愛者の4.5倍でした。

アセクシュアルの割合を6つの調査で比べた記事でも触れたとおり、この調査は全国から無作為に人を選んだ数少ない調査です。当事者コミュニティの中だけで集めたデータではないため、「言葉を知らないまま生きている人」も母数に含まれています。

こころの状態にも差が出ています|心理的ストレス53.1%

同じ調査は、最近1か月の心の状態をK6という6項目の尺度で測っています。「神経過敏に感じましたか」「自分は価値のない人間だと感じましたか」などに0〜4点で答え、合計5点以上が「心理的ストレスを抱えている可能性」とされる指標です。

5点以上の割合は、異性愛者が36.4%だったのに対し、無性愛者は53.1%でした。半数を超えています。同性愛者・両性愛者は50.0%、トランスジェンダーは71.9%でした。

住まいを変えたい気持ちにも差が出ます。「引っ越したい」と答えた割合は、異性愛者45.2%に対し無性愛者61.2%でした。親との同居率も、無性愛者は父親36.7%・母親46.9%と、性的指向別で最も高い数字です。今いる場所が居心地のよい場所になっていない人が多い、と読めます。

生きづらさが表面化する5つの場面【徹底比較表】

生きづらさは1日中続くわけではありません。特定の場面で立ち上がります。同志社大学の卒業論文「『他者に対して性的に惹かれない』アセクシュアルの不可視化と葛藤」は、当事者13人に1時間ずつインタビューし、生きづらさの要因を「恋愛関係でのすれ違い」「周囲からの無理解による無意識の不配慮な言葉」「社会通念」の3つに整理しました(論文本文PDF)。13人中11人が社会通念に言及しています。

アセクシュアルの生きづらさが表面化する職場や友人との雑談の場面についての解説

この3要因を、実際に起きる場面に落とすと5つになります。

場面起きること男性に偏りやすい理由事前に防げるか消耗を減らす型
職場・学校の雑談恋バナ、下ネタ、風俗や合コンの誘い。話に乗らないと「冷たい」と評価される男性同士の場では性的な話題が結束の道具として使われる×(相手が始める)「そういうの好きじゃないんだよね」で短く切る
実家・親族結婚、孫、「いい人いないの」。年に数回まとめて来る長男・跡継ぎの文脈が上乗せされる△(訪問頻度は調整できる)否定も肯定もせず話題を移す
友人関係恋人ができた友人と疎遠になる。「まだしてないの」と踏み込まれる経験の有無が上下として扱われやすい△(付き合う相手は選べる)恋愛以外の共通軸がある関係を厚くする
恋人・パートナー性的な関係の期待と、応えられない自分。別れの原因になる「男性側が求めるもの」という前提で話が進む○(先に伝えれば防げる)交際が始まる前に前提を共有する
自分の内側老後の孤独、「人として欠けている」感覚弱音を出す場が少なく、一人で反芻する○(言葉と情報で減らせる)同じ言葉を使う人の存在を知る

1. 職場・学校の雑談

困りごとの1位が「自分の仕事」で59.2%だったことと、この場面は無関係ではありません。仕事の悩みは業務内容だけではなく、そこにいる人との時間の総和です。歓迎会で恋人の有無を聞かれ、飲み会で下ネタに笑い、独身であることをいじられる。1回あたりは小さくても、週5日繰り返されます。

論文のインタビューでは、同じセクシュアルマイノリティであるゲイの友人から「まだしてないの」と言われた当事者もいました。性的に惹かれること自体は当たり前という前提は、マイノリティの側にも存在します。

2. 実家・親族

「家族・親族間の人間関係」を困りごとに挙げた割合は32.7%で、異性愛者の16.6%の約2倍でした。親からの言葉は悪意ではなく心配の形を取ります。だからこそ反論しにくく、毎回受け流す作業が発生します。

「(あなたもいつかは結婚するのねと言われ)その場の空気を壊さないように煙にまくというか、そうですね。いつかね相手がいればねみたいな感じでさらっと流し、別の話題に切り替えちゃったりっていうことが多い」

出典: 同志社大学2023年度卒業論文 アセクシュアルの不可視化と葛藤(Aさんの語り)

親に伝えるかどうかを考えている段階なら、親へのカミングアウトの手順と反応別の対処伝えるタイミングの決め方が判断材料になります。

3. 友人関係

「職場以外の友人・知人との関係」を困りごとに挙げた割合は12.2%で、異性愛者の5.1%の2倍以上でした。20代後半から30代にかけて、友人の話題は恋愛・結婚・子どもへ移っていきます。共通の話題が減った結果として距離が開きます。

4. 恋人・パートナー

性的な関係をめぐるすれ違いは、5つの場面のなかで唯一、事前に防げるものです。交際が始まる前に前提を共有できれば、別れの原因にはなりにくくなります。伝え方はアセクシャルの恋愛とパートナーの探し方ノンセクシャルのカミングアウトと恋人への伝え方にまとめています。

一方で、価値観のすり合わせには限界があります。論文のインタビューでも、すり合わせは可能かという質問に対し「アレルギーの人に1回なら食べられますかって聞いても絶対無理じゃないですか。同じようなものだと思う」と答えた当事者がいました。相手を変える方向で努力し続けると消耗します。

5. 自分の内側

「老後の生活」を困りごとに挙げた割合は55.1%でした。恋愛や結婚を人生の標準ルートとして提示される社会で、そこから外れた自分の40年後を想像することが不安の中身です。

家族や生活の形は、恋愛以外の経路でも設計できます。恋愛感情がなくても結婚する4つの道恋人ではない生涯のパートナーを持つクィアプラトニック関係友情結婚という選択肢は、いずれも実際に選ばれている形です。

男性の生きづらさが見えにくい3つの理由

1. かけられる言葉が違う

論文は、生きづらさに性別が関わっている可能性を指摘しています。男性を自認する26歳の当事者は「病気」「なんか変」という直接的な言葉をかけられ、身体的性が男性の20歳の当事者は「好きな人がいないと言ってもしつこく聞かれた」と語りました。

女性が受けやすいのは「ピュアだね」「いつかいい人が現れる」という励ましの形を取った言葉です。男性が受けやすいのは、異常性を疑う言葉と、引き下がらない追及です。前者は流せますが、後者は説明を要求されます。

2. 「男性には性欲がある」という前提

性的に惹かれないことと、性欲がないことは別です。性的な空想や自慰はあるのに、実在の相手に惹かれないという状態もあります(エーゴセクシュアル)。この区別が共有されていないため、「性欲があるなら普通だ」と結論づけられ、話がそこで終わります。

自分の状態を説明する言葉が見つからない段階なら、性的に惹かれる感覚がない自分に気づくまでの道筋アセクシャル男性が気づきにくい理由が出発点になります。

3. 弱音の持っていき先がない

当事者団体As Loopが2024年11月に実施した「Aro/Ace調査」には約2,500人が回答しましたが、相談窓口を利用した経験がある人は1割未満でした(東京新聞 2025年8月26日)。カミングアウトの経験がある人は約6割いるにもかかわらず、専門の窓口には行き着いていません。

セクシュアリティを語る発信は女性の書き手に偏っています。今回のSERP調査で上位に並んだ記事も、書き手や取材対象はほぼ女性でした。読んでも自分と重ならないため、男性は言葉を得る機会をさらに逃します。

場面別の返し方【NG/OK対応表】

論文のインタビューで当事者が実際に使っていた対処法は、説得ではありませんでした。長引かせないことです。作り話をしてもどうせバレる、深掘りされたくない、という理由から、短く切って話題を変える方法が選ばれています。

言われること消耗するNGの返し方消耗しないOKの返し方
「彼女いないの?」「今はちょっと忙しくて」と作り話でつなぐ「そういう話、あんまり得意じゃないんだよね」
「そのうちいい人が現れるよ」「そういうもんじゃないんですよ」と説明を始める「そうかもしれないですね」と受けて話題を移す
「風俗行こうよ」「合コン来なよ」体調不良などの理由を毎回作る「そういうのはパスで」と理由を付けずに断る
「まだしてないの?」経験の有無を答える「その話はしない主義」と線を引く
「いつ結婚するの」(親族)結婚しない理由を説明する「考えとくね」で終える。年1回なら流す
「病気なんじゃない?」反論して自分の正常さを証明しようとする「そう見えるんだね」と返し、その相手には以後話さない

「(恋愛の話を振られ)なんかそういうの好きじゃないんだよねって言っちゃうことが多いかな。やっぱり何か架空のね、作り話したところでどうせばれちゃうし、なんかその話をあんまり長引かせたくないからっていうのもあったり、自分のことを深掘りされたくないっていうのもあるから」

出典: 同志社大学2023年度卒業論文 アセクシュアルの不可視化と葛藤(Bさんの語り)

男性の当事者からは、恋バナの場を乗り切るために知識だけは持っておく、という方法も語られていました。理解を求めるのではなく、その場を短く終わらせる。それが13人の語りから見えた実際の対処です。

誰に、どこまで話すか|開示の3段階

全員に説明する必要はありません。カミングアウトは義務ではなく、道具です。使うかどうかは、相手との関係が続く長さと、話したあとの安全で決めてください。

  • 段階0:話さない— 職場の雑談相手、年に一度会う親族、SNSの知人。関係が浅く、説明の労力が回収できない相手です。上の対応表で短く切ります
  • 段階1:ラベルなしで伝える— 「恋愛や性の話にあまり関心がない」とだけ伝えます。用語の説明を求められず、相手の理解度に左右されません。友人や上司にはこの段階で足ります
  • 段階2:言葉を使って伝える— 「アセクシュアル」という言葉と定義を伝えます。交際相手、同居する家族、長期の関係を続ける相手が対象です

段階を上げる前に、相手がアウティング(本人の同意なく第三者に伝えること)をしない人かを確かめてください。判断に迷う場合はカミングアウトの相手別ガイドアウティングされたときの対処法を先に読むことをすすめます。

論文のインタビューで、当事者が周囲に望んでいた反応は共通していました。「そうなんだ、で終わってほしい」「否定しないでほしい」「追求しないでほしい」の3つです。共感も完全な理解も求めていません。ある当事者は「認めてくれとまでは言えない」、別の当事者は「関心を持ってほしいとか、完全な理解をしてほしいというのは正直ない」と語っています。伝える側も、そこまでを目標にすれば十分です。

相談先と、同じ言葉を使う人がいる場所

一人で反芻する時間が長いほど、生きづらさは膨らみます。心理的ストレスの数値が高いことと、相談窓口の利用が1割未満であることは、おそらく無関係ではありません。

当事者調査を続けるAs Loopは、アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラムの調査結果や資料を公開しています。プライドハウス東京は、LGBTQ+当事者向けの居場所と相談を提供しています。職場でセクシュアリティに関する不利益を受けている場合は、SOGIハラスメントの定義と相談先が使えます。

数のうえでも、あなたは例外ではありません。電通グループが2023年に全国20〜59歳の5万7,500人を対象に実施したスクリーニング調査では、アセクシャルに該当する人が1.56%、アロマンティックに該当する人が1.43%でした(電通LGBTQ+調査2023)。

よくある質問

Q: アセクシュアルの生きづらさは、いつか慣れますか?

場面ごとの対処は確実に上達します。恋バナを短く切る、親の話題を移す、といった技術は繰り返すほど消耗が減ります。一方で、周囲から言葉をかけられること自体はなくなりません。慣れを目標にするより、頻度を下げる設計(付き合う相手を選ぶ、実家に滞在する時間を調整する)のほうが効果的です。

Q: 生きづらいのは、アセクシュアルだからですか?

生きづらさの発生源は、性的に惹かれないことそのものではありません。全国調査でも「自分の恋愛」を困りごとに挙げた割合は異性愛者を下回っています。差が出たのは仕事、老後、家族との関係、ハラスメントでした。恋愛と性愛が当然の前提として置かれている環境と、自分との摩擦が発生源です。

Q: 周りに理解してもらうにはどうすればいいですか?

完全な理解を目標にすると疲れます。当事者13人へのインタビューでも、望まれていたのは「そうなんだ、で終わる」反応でした。相手に求めるのは、否定しないことと追及しないことの2つで十分です。理解が得られる相手は、伝える前から否定しない人です。

Q: 恋人と価値観をすり合わせることはできますか?

性的な関係の有無については、すり合わせで折り合わないケースがあります。回数を減らす交渉ではなく、前提そのものが違うためです。交際が始まる前に前提を共有し、相手がそれを受け入れられるかを確認する順序が現実的です。詳しくはアセクシャルは恋愛できるのかを2つの指向から解説した記事を参照してください。

Q: 誰にも言わないまま生きていくのは、逃げですか?

違います。カミングアウトは目標ではなく手段です。全国調査では、パートナーシップ制度の有無を「わからない」と答えた無性愛者が75.5%でした。制度も窓口も、使うかどうかは本人が決めます。話さない選択を続けたまま、生活の形だけを整えることもできます。

Q: 気分の落ち込みが続くときはどうすればいいですか?

心理的ストレスを抱えている可能性がある水準の人は、無性愛者で53.1%と半数を超えています。眠れない、何をするのも骨折りに感じる、自分は価値のない人間だと感じる、といった状態が2週間以上続くなら、セクシュアリティの相談ではなく医療の領域です。心療内科や自治体の窓口を先に使ってください。

生きづらさを減らすために、今日できる3つのこと

  1. 自分の状態に名前をつける — 説明できない状態が続くこと自体が消耗の原因です。アセクシュアル、ノンセクシャル、グレーセクシュアル、デミセクシュアル。どれが近いかはアセクシュアル・スペクトラムの7タイプで確かめられます。決めきらなくても構いません
  2. 消耗している場面を1つ特定して、頻度を下げる — 5つの場面のうち、直近1か月で最も削られたのはどれかを書き出します。実家の滞在日数、飲み会の参加回数、SNSを見る時間。減らせるものから減らします
  3. 同じ言葉を使う人の記録を1本読む — 当事者の語りに触れることは、孤立感に対して最も直接的に効きます。アセクシャルあるある21選ノンセクシャルあるある21選から始めてください

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自分の状態に名前をつける

他称と指向を切り分ける

関係と生活を設計する

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