アセクシュアルの割合は何人に1人?調査6つを徹底比較
日本全国の無作為抽出調査でアセクシュアルと答えた人は0.9%、およそ110人に1人でした。数字は調査によって0.7%から1.6%まで開きます。国内外6つの調査を設問文と抽出方法まで並べて比較し、統計に表れない層と男性が見えにくい理由を解説します。
同じ感覚の人が周りに一人もいません。だから間違っているのは自分のほうではないか——他者に性的に惹かれる感覚が自分にはないと気づいたとき、あなたが最初にたどり着いたのはその結論だったはずです。草食、奥手、淡白。自分を説明するために使ってきた言葉は、どれも他人があなたに貼ったラベルかもしれません。
数字で見ると話は変わります。日本全国から無作為に抽出した調査で「アセクシュアル・無性愛者」と答えた人は0.9%、およそ110人に1人でした。40人の教室にも、100人の職場にも、まず見当たらない頻度です。しかも調査によって数字は0.7%から1.6%まで開きます。この開きがどこから来るのかまで分かると、統計上の数字と自分の感覚をどう結びつければいいのかが見えてきます。
アセクシュアルの割合は全国調査で0.9%|およそ110人に1人
日本で最も信頼性が高いのは、2023年2月に実施された「家族と性と多様性にかんする全国アンケート」です。住民基本台帳に登録された全国18〜69歳から層化二段無作為抽出法で18,000人を選び、郵送で調査票を届けました。有効回答は5,339人です(国立社会保障・人口問題研究所)。
性的指向をたずねた設問の回答は次のとおりでした。
| 回答した選択肢 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 異性愛者 | 4,218人 | 79.0% |
| ゲイ・レズビアン・同性愛者 | 19人 | 0.4% |
| バイセクシュアル・両性愛者 | 95人 | 1.8% |
| アセクシュアル・無性愛者 | 49人 | 0.9% |
| 決めたくない・決めていない | 299人 | 5.6% |
| 質問の意味がわからない | 603人 | 11.3% |
出典は同調査の結果概要(PDF)です。設問の選択肢は「アセクシュアル・無性愛者(誰に対しても性愛感情を抱かない人)」という文言で示されました。
0.9%を人数に直すと、およそ110人に1人です。同性愛者と答えた人(0.4%)の2倍以上いる一方、身の回りで出会う確率は限りなく低いままです。あなたが自分と同じ感覚の人に会ったことがないのは、性格でも運でもなく頻度の問題です。
アセクシュアルという言葉の定義そのものはアセクシャルとはで扱っています。グレーやデミを含めた広がりはアセクシュアル・スペクトラムで整理しました。
国内外6つの調査を徹底比較|0.7%から1.6%まで開く理由
同じ「アセクシュアルの割合」でも、引用する調査によって数字は倍近く変わります。並べると規則性がはっきり見えます。
| 調査 | 実施年 | 対象と抽出方法 | 有効回答 | 設問で使われた言葉 | 割合 |
|---|---|---|---|---|---|
| 家族と性と多様性にかんする全国アンケート | 2023年 | 全国18〜69歳・住民基本台帳から無作為抽出 | 5,339人 | 誰に対しても性愛感情を抱かない | 0.9% |
| 大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート | 2019年 | 大阪市18〜59歳・住民基本台帳から無作為抽出 | 4,285人 | 誰に対しても性愛感情を抱かない | 0.8% |
| 埼玉県 多様性を尊重する共生社会づくりに関する調査 | 2020年 | 埼玉県18〜64歳・住民基本台帳から無作為抽出 | 5,606人 | 誰に対しても性愛感情を抱かない | 0.7% |
| dentsu Japan LGBTQ+調査2023 | 2023年 | 全国20〜59歳・インターネット | 57,500人 | 性別に関係なく他者に性的に惹かれない | 1.56% |
| dentsu Japan LGBTQ+調査2026 | 2026年 | 全国20〜59歳・インターネット | 46,658人 | 性別に関係なく他者に性的に惹かれない | 1.52% |
| 英国 NATSAL-I(Bogaert 2004の分析) | 1990年代 | 英国16〜59歳・無作為抽出 | 約18,000人 | 誰に対しても性的に惹かれたことがない | 1.1% |
住民基本台帳から無作為に選んで郵送する公的な3調査は、0.7%から0.9%の狭い範囲に収まっています。一方、インターネットで実施された電通の調査は2023年が1.56%、2026年が1.52%と、いずれも1.5%台です(dentsu Japan LGBTQ+調査2023/同2026。2026年調査のアセクシュアル・アロマンティック別の内訳はAセクAロマ部の整理によります)。
差が生まれる原因は3つあります。
第一に、設問で使われている言葉が違います。公的3調査はいずれも「誰に対しても性愛感情を抱かない人」という説明で選択肢を提示しました。電通の調査は「性別に関係なく、他者に性的に惹かれない」と表現しています。性愛感情と性的惹かれは、当事者にとって同じ言葉ではありません。感情の有無で判断するか、惹かれの有無で判断するかによって、自分を当てはめる人が変わります。
第二に、回答の集め方が違います。郵送調査は住所を無作為に選んで届けるため、セクシュアリティに関心がない人にも等しく届きます。インターネット調査は登録モニターから回答者を集めるので、関心が高い層や自分の言葉を持っている層が相対的に多くなります。
第三に、対象年齢が違います。全国調査は18〜69歳、電通の調査は20〜59歳です。自分をアセクシュアルと表現する人は若い層に多い傾向が指摘されており、高齢層を含む調査ほど割合は下がります。
統計に表れない層|「質問の意味がわからない」が11.3%
割合の記事のほとんどが触れないまま終わる数字があります。全国調査で「質問の意味がわからない」と答えた603人、11.3%です。
「決めたくない・決めていない」と答えた人は299人、5.6%でした。この2つを合わせると16.9%になります。アセクシュアルと答えた0.9%の、およそ19倍です。自分の性的指向を6つの選択肢のどれかに置けなかった人が、置けた人よりはるかに多いという結果です。
大阪市の調査でも同じ傾向が出ています。2019年に大阪市在住の18〜59歳15,000人へ郵送し、4,285人から有効回答を得た調査では、「質問の意味がわからない」が322人で7.5%、「決めたくない・決めていない」が222人で5.2%でした(大阪市民のアンケート)。埼玉県が2020年に県内15,000人へ実施し5,606人から回答を得た調査でも、同じ選択肢が用意されています(埼玉県 調査結果)。
ここで注意が必要なのは、この層をそのまま性的マイノリティとして数えられない点です。全国調査の研究チームは、別の試験的調査で「決めたくない・決めていない」と回答した人の22〜54%は異性愛者の可能性があると指摘しています。決めていないことは、アセクシュアルであることを意味しません。
言えるのはひとつです。用意された選択肢に自分を置けない状態は、統計上まったく珍しくありません。あなたがどれにも当てはまらない気がしているとしても、それは自分の感覚が壊れている証拠ではありません。自分の現在地の整理はセクシュアリティ診断や自分のセクシャリティがわからない男性へで扱っています。
男性のアセクシュアルが実際に見えにくい3つの理由
割合を調べているあなたが本当に知りたいのは、全体の数字ではなく「自分と同じ男性がどれくらいいるのか」のはずです。国内の公的調査は、性別ごとのアセクシュアルの割合を公表していません。それでも、男性が見えにくくなる構造は複数のデータから読み取れます。
理由1: 海外の全国調査でも当事者の3割弱しか男性ではない
英国で16〜59歳を対象に行われた全国調査(NATSAL-I)の分析では、回答者の1.1%が「これまで誰に対しても性的に惹かれたことがない」と答えました。この分析でアセクシュアルに分類された人のうち、男性は29%です。アセクシュアルではない回答者では男性が43%を占めていました(人口問題研究77巻2号に収録された研究整理より)。少数派の中で、男性はさらに少数派になります。
理由2: 当事者調査の回答者はシスジェンダー女性と若年層に偏る
日本で初めてアセクシュアルを主な対象として行われたウェブ調査「アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム調査2020」を分析した学術論文は、回答者にシスジェンダー女性・若年層・南関東居住者が多い傾向を明らかにしています。当事者の声として世に出る体験談やインタビューが女性に偏るのは、この構造が背景にあります。あなたが検索して見つけた記事の書き手がほとんど女性だったなら、実感と一致するはずです。
理由3: 言葉に出会わなければ自認は始まらない
同じ論文は、アセクシュアルは知名度が低いため、違和感を持っていても言葉に出会わなければ自認しない可能性を指摘しています。男性の場合、性的に惹かれない状態は「奥手」「草食」「まだ本気の相手に出会っていない」という別の説明で回収されがちです。説明がついてしまう限り、調べるきっかけが訪れません。統計に表れないだけで、存在していないわけではありません。
男性当事者の自認の道筋はアセクシャル男性とアセクシャルの自覚で詳しく扱っています。恋愛的に惹かれない側の軸はアロマンティック男性、両方が重なる場合はアロエースとはを参照してください。
割合の数字を自分に当てはめる前に確かめる5項目
統計は、自分がどこにいるかを決めてくれません。数字を読んだあとに確かめるのは、次の5点です。
- 性的に惹かれないのか、性欲そのものがないのか。この2つは別物で、性欲があってもアセクシュアルと自認する人がいます
- 誰に対しても惹かれないのか、まれに惹かれることがあるのか。後者はグレーセクシュアルの範囲に近づきます
- 強い信頼関係ができた相手にだけ惹かれるのか。その場合はデミセクシュアルの説明が合います
- 恋愛感情はあるのか。恋愛感情があって性的惹かれがない状態にはノンセクシャルという日本独自の言葉があります
- いつからその感覚があるのか。心身の不調や過去のつらい経験と重なる時期に始まったなら、切り分けて考える必要があります
5項目のどこにも決着がつかなくても問題ありません。全国調査で16.9%の人が同じ場所に立っています。ラベルは自分を説明する道具であって、当てはめなければならない枠ではありません。
数字が示すもうひとつの現実|からかい55.1%・暴力的行為34.7%
割合を調べる過程では表に出てきませんが、同じ全国調査は当事者が置かれた状況も測っています。性的指向別に嫌がらせの経験を集計した結果、「無性愛者」と答えた人の55.1%が不快な冗談やからかいを受けた経験があり、34.7%が暴力的行為を受けた経験がありました。暴力的行為の経験率は、集計されたどのカテゴリーよりも高い数値です。
この数字は、割合の小ささが「困りごとの小ささ」を意味しないことを示しています。人数が少ないほど、周囲に説明する場面で説明の負担が本人に集中します。周囲へ伝えるかどうかの判断はアセクシャルのカミングアウトで扱っています。伝えない選択も同じだけ正当です。
よくある質問
Q: アセクシュアルは何人に1人ですか?
日本全国の無作為抽出調査では0.9%、およそ110人に1人でした。インターネット調査では1.5%前後(約65人に1人)という結果が出ています。調査方法によって倍近い開きがあるため、「およそ100人に1人前後」と幅を持って理解するのが正確です。
Q: 調査によって割合が違うのはなぜですか?
設問の言葉・回答者の集め方・対象年齢の3つが違うためです。郵送で無作為に届ける公的調査は「性愛感情を抱かない」という言葉を使い0.7〜0.9%、インターネット調査は「性的に惹かれない」という言葉を使い1.5%前後になります。関心のある層が回答しやすいインターネット調査のほうが高く出ます。
Q: 男性のアセクシュアルの割合はどのくらいですか?
日本の公的調査は性別ごとの割合を公表していません。英国の全国調査を分析した研究では、アセクシュアルに分類された人のうち男性は29%でした。全体に占める男性の割合は、女性より低く出る傾向があります。
Q: アセクシュアルの割合は増えているのですか?
人が増えているというより、自分を説明する言葉を持つ人が増えていると考えるのが妥当です。電通の調査でLGBTQ+全体の割合は2023年の9.7%から2026年に10.6%へ動きましたが、アセクシュアルの数値は1.56%から1.52%とほぼ横ばいでした。言葉の認知率は上がっており、2026年時点で「アロマンティック・アセクシュアル」という言葉を意味まで知っている人は10.7%です。
Q: ノンセクシャルは割合に含まれますか?
公的調査の選択肢に「ノンセクシャル」はありません。恋愛感情はあり性的に惹かれない状態を指すこの言葉は日本独自の区分で、調査上は「アセクシュアル・無性愛者」か「決めたくない・決めていない」のどちらかに散らばります。統計から実数を読み取ることはできません。
Q: 割合が少ないと、自分がおかしいということですか?
違います。頻度と正しさは無関係です。全国調査では、自分の性的指向を選択肢に置けなかった人が16.9%いました。少数であることは、治すべき理由にも、自分を責める理由にもなりません。
数字ではなく自分の感覚を確かめる次の一歩
アセクシュアルの割合は、無作為抽出の全国調査で0.9%、インターネット調査で1.5%前後です。あなたの周りに同じ感覚の人が見当たらないのは、あなたの感覚が例外だからではなく、単純に頻度が低いからです。男性はその中でさらに見えにくくなります。
やることは2つです。まず、数字を根拠に自分を診断しようとするのをやめること。次に、性的惹かれ・恋愛的惹かれ・性欲の3つを分けて、自分の感覚を言葉にしていくことです。統計はあなたを分類する道具ではなく、自分だけがおかしいという思い込みを外すための材料です。
次に読む
アセクシュアルの意味と自認を確かめる
- アセクシャルとは — 定義と混同されやすいセクシュアリティの整理
- アセクシャルの自覚 — 違和感から納得までの3段階
- アセクシャル男性 — 男性が気づきにくい社会的な理由
- アセクシュアル・スペクトラム — 7タイプを2軸の図で整理する
隣接する感覚との違いを知る
- グレーセクシュアルとは — まれに惹かれる頻度の低さ
- デミセクシュアルとは — 強い絆を築いた相手にだけ惹かれる
- ノンセクシャルとは — 恋愛感情はあるが性的に惹かれない
- アロエースとは — 恋愛軸と性愛軸が重なる場合
これからの関係を考える
- アセクシュアルのパートナー探しと結婚 — 前提を共有できる相手と出会う手順
- クィアプラトニック関係とは — 恋愛でも友情でもない結びつき
- 恋愛感情がないけど結婚したい人へ — 恋愛感情なしで結婚に進む4つの経路





